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ポーズの定理: 1-7『ポーズの定理』
本記事は書籍『描きたいものを理論でつかむ ポーズの定理』の抜粋記事です。
漫画家の篠房六郎先生が、研究をかさねた美しいポーズの定理について、基本理論を説明するプロローグとチャプター1をご提供いただきました。
今回はチャプター1のセクション7の内容を紹介していきます。
Nパターンの現れる動作
Nパターンの大きな特徴の一つが、「A〜Dパターンへの移行途中で瞬間的に現れ、すぐに移り変わってしまう」というものです。
ここでは、意図的にNパターンを利用する動作を取り上げます。
あえてバランスを崩して身体が倒れるようにしている
歩く、走るといった基本動作も、実は動きの推進力となるのは、前向きに倒れる自重です。
つまり前方に倒れ込む身体を片足で交互に支え続けているというのが実態で「正しくバランスを崩しながら」前に進んでいるのです。
そのためNパターンが多く見られます。
ミドルキックを繰り出す前の一瞬の予備動作では、わざと左右どちらかに身体を倒しバランスを崩すNパターンを経て「Cの立ち直り反応」を誘発しています。
さらに、柔道の払い腰のように自分ごと相手と一緒に倒れ込む技も動作の中にNパターンを組み込んでいます。
空中で落下する体勢に入っている
空中では、軸足にとらわれることもなく自由にポーズが取れて、地面とぶつかって衝撃で立ち直り反応を起こすこともないので、比較的長時間Nパターンが見られます。
Nパターンはとにかくバランスが悪く、そのままだと落下しやすいので、スケボーのオーリー(ジャンプ)などでは加速して落下するためにわざとNパターンのポーズを取ります。
軸足に全体重をかけて、跳び上がるためのバネをためている
軸足1本に全体重をかけ、筋肉、関節を跳躍のためのバネとして使うときはNパターンのポーズとなります。
槍投げでは、投げる直前の体勢がNパターンとなっており、負荷のかかっている側の足を思い切り踏み切って、その跳ね上がる勢いをする槍に乗せています。
また、テニスのジャンピングスマッシュでも、その跳ね上がる勢いをラケットに乗せて相手のコートに打ち込みます。
強い立ち直り反応を引き出そうとしている
ジャンプして着地するとき、Nパターンのようなバランスの悪い体勢だと、衝撃と不安定の2つのトリガーによってより強い立ち直り反応が引き起こされます。
ソフトボールのスリングショット投法などでは、その勢いでより強く背骨を水平回転させて、スピードをボールに乗せています。
回転運動による遠心力が働いている
回転運動を行うと、重力とは別に回転の中心から外側に向かって遠心力が働くため、通常ではありえない姿勢のままバランスが保たれていることがあります。
フィギュアスケートのアクセルジャンプのような斜めになる空中回転は遠心力なしでは決してできないポーズです。バイクのコーナリングでコーナーの内側に倒れそうなくらい傾くのもこれが原因です。
また、モーションの大きな蹴り技を放った後などで蹴りの回転の勢いのまま瞬間的にNパターンになっていることも多いです。
丹田に力が入った状態になっている
脇腹の開きは、腰椎の立ち直り反応(ABCパターン)によってのみ決まるのではなく、腕の働きによっても稼働するので、その働きが互いに相殺され、ちょうど腰椎のひねりがゼロになることがあります。
この状態を武術では丹田(下腹部)に力を入れた、と表現して様々な構えの中に取り入れています。
どうしてこのようにするかというと、腰椎のひねりと共に横隔膜の圧迫が無くなるので、思い切り深呼吸をして呼吸を整え、一気に力を出したり体力を回復したりしていたようです。
Nパターンでなければ表現できないポーズ
転ぶという動作は、まず普通のポーズ集には無いどころか画像検索しても良い資料は得られず、モデルに頼むのも自撮りするのもほぼ無理、ということで描く際はほとんど自分の記憶と想像にのみ頼らなければならない難易度の高いポーズです。
が、P24で示したようなバランスを保つ条件を外していけば、理詰めで描けます。転ぶ直前はNパターンですが、転んだあとは衝撃で引き起こされた立ち直り反応によって大抵Cパターンとなるので注意して下さい。